バチカンで「結婚」についての宗教間対話
11月17日~19日、バチカンで、ローマ教皇が主催して「男女の相補性」についての異宗教間の討論会が開催された。『CathoricVote』によると、事前のアナウンスでは、23か国から14の宗教的伝統の代表者が集まるとされていた。
Joshua Mercer. “BREAKING: POPE TO HOST INTERNATIONAL CONFERENCE ON COMPLEMENTARITY OF MAN AND WOMAN”. CATHOLIC VOTE. Nov 3rd, 2014
これは非常に歴史的な出来事だと言えるだろう。地球上のあらゆる地域から、カトリックとプロテスタント、ユダヤ教、ジャイナ教、モルモン、イスラム、シーク教、ヒンドゥー教、仏教など、ほとんどすべての宗教的伝統の指導者たちが一堂に会し「性」と呼ばれているものの意味について、彼らの信仰的伝統による洞察を分かち合ったのである。
「the American Principle Project」のシニアフェロー、マギー・ギャラガー(Maggie Gallagher)が、『National Review』に所感を交えたレポートを寄せている。
Maggie Gallagher. “Rome’s Extraordinary Ecumenical Event”. National Review Online. Nov 21th, 2014
バチカンと言えば、9月に、やはり「家庭」を主題としたシノドス(世界司教会議)が開催され、「離婚・再婚者への聖体拝受」「同性愛者への司牧的配慮」などの討議が行われたことが話題となった。その際、伝統的に一夫一婦の理念を厳格に守ってきたカトリックが、リベラルな方向に舵を切るのではないかという推測も流れたが、今回、教皇は、はっきりと伝統的な結婚を支持する立場を明確にした。
教皇は「子供たちは、父親と母親のいる家族の中で育つ権利をもっています」と語り、更に、現代が直面する、より広範な危機についても以下のように述べた。
「私たちは、現在、はかない刹那的な文化の中で生きています。その中で、ますます多くの人々が、公的な誓約としての結婚を全くあきらめてしまっています。習慣やモラルにおけるこの革命は、しばしば、自由の旗を掲げてきました。しかし、実際には、それは、霊的、物質的な荒廃を、数えきれない人々にもたらしてきたのです。特に、最も貧しく、最も弱い人々に…。常に苦しむのは彼らであり、この危機においても最もそうなのです」
「結婚についての更にもう一つの真実を高く掲げましょう。連帯と忠誠と実り多き愛への永続的な関与は、人間の心情の最も深い願いにこたえるものです」
更に、次の世代を担う若者たちについても「彼らが、はかない有毒な考え方にふけらないように、むしろ、一般的な流れに抗して、真実で永遠な愛を求める勇気を持った革命家になることが重要です。これは必ずなされなければなりません」と語った。
ギャラガーは、その会議で経験したことを言葉では表現できないと書いている。それは深く根本的な「何か」であり、現代の家庭をめぐる論議の中で失われているものだと述べ「飢え乾いた人間の心情によってのみ経験される」ものだとも書いた。現代社会においては、嘲笑されることかも知れないが、純潔や貞操といった価値を改めて見つめなおす機会となったという。
そこでは、カトリック以外の立場からも多くの発言があり、その一つ一つが、結婚と家庭の素晴らしさを再確認させるものだった。
リック・ウォーレン師(Rick Warren)は聖書を引用し、キリストが教会を愛し、そのために彼自身を捧げたように、夫たちは妻を愛するべきだ、と語った。彼女が、汚れも、しわも、傷もなく、神聖で純粋に輝くことができるように…。
その神聖な女性のイメージをギャラガーは、アフリカ系米国人問題を専門とする社会学者ジャクリーン・リバーズ(Jacqueline Rivers)の姿に感じた、と書いている。現代社会の性の問題について無力だった宗教指導者たちを、リバーズは勇気ある断固として姿勢で、しかし礼儀正しく非難した。彼女が持っている、その感覚を回復することができるかどうかによってキリスト教の今後の浮沈が決まるだろうとまでギャラガーは言う。「ジャクリーン・リバーズを生み出すような文化は、そのために闘い、犠牲となり、あきらめることを拒否する価値があるものだ」。
それらの中で、ギャラガーに最も深く、結婚のもつ神聖さ、素晴らしさを感じさせてくれたのはヘンリー・ベニオン・アイリング師のスピーチであった。アイリング師は、長く異端として迫害された歴史を持つモルモン教の最高指導部の一人であり、彼と教皇の出会い自体が歴史的なものである。
彼は、バチカンの一室で、自分自身の妻との劇的な出会い、そして、6人の子供と31人の孫に恵まれ、その会議に到着した日にはひ孫が生まれたことなどを語った。
中でも、強調されたことは「結婚の誓約」だった。アイリング夫妻は、52年前にモルモン教の寺院で結婚式を挙げ、その後、多くの子供、孫を産み育てただけではなく、健康、病気、さまざまな出来事を通過した。
しかし、その多くの変化の中で「私の妻と私は、それらの約束を信じました。そして、私たちはその幸福を望んだのです。だから、私たちは生活の状況のあらゆる場面を通してそれを可能にするために行動しました。」「これらの変化の中で、52年以上も前の結婚の日から変わらない一貫したものがあったのです」。
アイリング管長は、時折、声を詰まらせながら、ほとんど涙を流さんばかりに証しをした。「私にとって最も驚くべきことは、私が私の妻に会った日に私が感じた望みの成就でした。私は彼女を愛し、共に生きることでより良い人間になったのです」。この言葉にギャラガーは「男女の相補性」が成就した姿を見る。そして、アイリング夫人の姿を思い浮かべ、それこそ、自らの息子に出会ってほしいと願った女性の姿であり、自らがなりたいと願った姿でもある、と感じたのである。
これらのスピーチや、カトリック教会の若者たちによって制作された映像などを通して、この会議で深い感動を受けたのは彼女ばかりではない。シャピュウ大司教(Archbishop Chaput)はマイクを取り、40年以上の聖職生活の中で、これほど興味深い討論会はなかった、と語った。同時に、彼は、来年の秋、フィラデルフィアで開催される予定の「2015年家族世界会議」(the 2015 World Meeting of Families in Philadelphia)への参加を呼びかけた。
会議を締めくくったのは、声明ではなく、約束だった。ジャクリーン・リバーズとジーン・リヴァーズ師(Reverend Gene Rivers)が読み上げた文章では、年齢や性別、違いを超えてすべてを結びつける「結婚」の素晴らしさを、励まし、祝賀する宗教指導者となることが誓約された。
会議の終了後、すべての参加者たちが立ち上がり、10分間にわたって拍手を送り続けた。
2014年11月26日