妻と子供と暮らすことで父親となる

Family

約2年前のものだが、『Slate』に掲載されたブラッドフォード・ウイルコックスの記事は興味深い。

W. Bradford Wilcox. “Daddy’s Home”. Slate. Jun 14, 2013

古来、子供を持つことで、女性に様々な変化が生じることはよく知られているが、ウイルコックスは、男性においても同様に、父親になることが、彼の身体や生活に変化をもたらすと書いている。

まず、赤ん坊が生まれる前に、平均で父親の体重が10ポンドほど増加するようだ。更に、赤ん坊が生まれた後には、男性たちのテストステロンの値が低下し、プロアクチンの値が上昇する。このホルモンの変化は、男性の攻撃性やリビドーを抑制し、より落ち着いた父親として、子供の世話をするのにふさわしい状態を作り出すという。

ただし、これはすべての父親に同様に現れる変化ではない。男性のホルモンの変化は、ともに生活するパートナー(女性)のホルモンの変化と共時的に働く。人類学者ピーター・グレイの研究では、テストステロンの低下が最も顕著に表れるのは「ペアとの親和的な契約をなし父親として子供の養育に」関与する男性だという。つまり、彼らの子供たちと、その子供の母親と一緒に暮らしている男性である。

逆に、子供がいたとしても、その母親と結婚していないか離婚したかで、共に暮らしていない男性については、そのような変化は現れない。

この問題について、調査結果が示すのは以下の三点。

1)自らの子供たちと一緒に暮らす父親は、子供のいない男性や、子供たちと離れて暮らす男性と比べ、より落ち込むことが少なく、人生に対する満足度も高い。

2)社会学者の故スティーブン・ノックの研究によると、赤ん坊が生まれた後、新しい父親たちは、より多く働き、より多くの収入を得る傾向がある。しかし、この傾向は結婚している父親たちにのみ当てはまる。婚外子の父親は、結婚している父親よりも、より働かず、より収入も少なく、貧困率が高い。

3)赤ん坊が生まれた後、結婚している男性は、あまりバーに行かなくなり、より教会に通うようになる。一方、子供たちと離れて暮らす男性は、稀にしか教会に通わず、より頻繁に飲酒にふける。
 
 
この記事は、体験的にも真実だと感じる。ホルモンの変化を計測したことはないが、私自身、単身赴任をしていて、自宅に帰省している期間と、一人で生活している時とでは、生活の仕方に少なからず影響がある。

一人で生活している期間は、妻や子供たちと一緒にいるときよりも、きちんとした良い生活を送るために、より多くの精神的な努力が必要になる。

そういった視点から見ると、両親と子供で生活する世帯が急速に減少し、単身世帯が3割以上に増加している日本の現状は、男性にとって、決して好ましいものではない。

非婚化、晩婚化の進展により、夫となり、父となる経験をしない男性が増え、女性もまた同様だ。これはホルモンなどの身体的な視点から見ても、人類の種としての歴史において、やはり異常な事態だと言えそうだ。そこでもたらされる個人的、社会的変化が、とても肯定的なものになるとは思えない。

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