白人と黒人の壁は崩れるか

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白人警官による黒人の殺害に対して、大陪審による不起訴判決が相次いで下される中、全米で抗議行動が続いている。その中で特筆すべき動きとして、白人、それも福音主義の牧師たちから、連帯の声が上がっている。『Religion News Service』が報じた。
 
Adelle M. Banks. “After Ferguson and Eric Garner decisions, white Christians say it’s time to stand with blacks”. Religion News Service. Dec 4,2014
 
 
南部バプテスト会議、倫理と宗教の自由委員会の代表、ラッセル・ムーアは「この国において、アフリカ系アメリカ人の兄弟姉妹たち、特に兄弟たちは、より逮捕され、処刑され、殺される危険にさらされているようだ」と語り、「今こそ私たちは、単に福音について語るだけではなく、壁を壊すことによって、福音を生き抜かなければならない時だ」と白人のキリスト教会に行動を呼びかけた。

アラバマ州チェルシーの南部バプテスト教会の白人牧師は「あなたの隣人をあなた自身のように愛しなさい」という聖句を引用し、自分自身が警官に取り囲まれ、殺された黒人の立場になったと思い描こう、とツイートした。

また、同州モントゴメリーの白人司祭、アラン・クロス師も、自分たちの視点で見つめるのではなく、黒人たちの視点に耳を傾けるように奨励した。「私たちは、黒人コミュニティの人々が、何を語り、何を行い、また彼らが経験していることが何なのかを考えるべきです」と訴えた。

南部バプテスト神学校の学長ダニー・エイキンは、「私は泣いています。そして彼の家族のために祈ります。この悲劇から、良きものがもたらされるように、私は私の神に願っています」とツイートした。

(以上、要約抜粋) 
 

多くの白人指導者たちが、今回の事件を機に、人種問題を乗り越える為に行動を起こそうと立ち上がり始めている。この事件については様々な見方があるが、人種差別が依然として根強いことが原因の一つにあることは事実である。隣人愛や敵のために祈ることがイエスの教えの中核であるなら、キリスト教徒が大多数を占めるアメリカに人種差別が残っているのは悲しむべきことだ。

「福音を語るだけでなく、福音を生きぬく」ことを訴えるムーアの言葉はその如く実践されるべきだろう。彼は、一部の白人聖職者の中にある人種問題への無関心をも批判した。「福音によって私たちの間にある壁を壊すということよりも、あきらかな聖書的な行為が他にあるだろうか」。

彼らはキリスト教徒に対して、真の福音を実践するように呼びかけている。一方、中東に目を転じると、イスラムの聖職者たちが、殺戮行為を続ける「イスラム国」に対して「それは本来のイスラムではない。イスラムは寛容と慈悲の宗教だ」と非難の声をあげている。

近年、「宗教」が戦争と分断の原因になっていると語られることが多い。しかし、本来の宗教は隣人愛や慈悲を説き、赦しや和解をもたらすものだったはずである。宗教を指導する立場にある者たちが、「福音を生き抜く」あるいは、クルアーンの教えを実践する模範を示せるなら、宗教は「平和をつくりだす」存在としての真の価値を発揮することができるだろう。
 
 
ちなみに、抗議活動のこれからについては注視が必要と思われる。かつて公民権運動の時代にも、キング牧師に主導された非暴力的な運動があった一方で、ブラック・ムスリムなど、一部に過激な闘争、分離路線をとる人々が現れた。福音の実践と、暴力的な抗議活動は結びつかない。分断された社会の修復の為には、より日常的な隣人愛の実践や具体的な奉仕活動こそが必要だろう。白人警官による非武装の黒人の殺害というセンセーショナルな一面だけにとらわれて、感情的行動に走るだけでは根本的解決はあり得ない。

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