諸宗教の指導者が集い「イスラム国」を非難
11月19日ウイーンにおいて、中東全域から諸宗教の指導者を集めた国際会議が開催され「宗教の名のもとの暴力に対抗して団結しよう」とのウイーン宣言が採択された。ロイターなどが報じている。
“Muslim,Christian,Jewish Leaders Unite to Condemn Jihadi Violence”. REUTERS. Nov 19th,2014
この会議は、サウジアラビアの後援を受ける「宗教間と文化間の対話のためのアブドゥッラー・ビン・アブドゥルアズィーズ王国際センター(KAICIID)」が主催し、サウジの国務大臣を始めとして、エジプト、レバノン、ヨルダンのグランドマフティや、キリスト教会の代表者、アルメニアユダヤ人委員会のラビなどが参加した。
参加者の一人、ムスリム世界連盟事務総長のアブドゥラ・ビン・アブドゥルムーセン(Abdullah bin Abdulmuhsen)は「イスラムに属するいくつかの組織がジハードの名のもとに行動しているが、彼らの行動は、まったくイスラムではない」と語った。
同様にサウジの国務大臣ニザール・ビン・オバイド・マダニ(Nizar bin Obaid Madani)も「宗教の名のもとにテロと暴力を使う派閥が中東に現れて、荒廃をもたらし、あらゆる人を殺害し、破壊の限りを尽くしている。テロリズムを受け入れた者たちは、彼らが行う抑圧のすべてをイスラムのものとしているが、イスラムは彼らと全く関係がない」と非難した。
会議では、ソーシャルメディアを用いた新兵の勧誘に対抗することや、学校、礼拝所、更にはより広範なコミュニティで、多様性と寛容の原理を広めることなどが要請された。
主催団体であるKAICIIDはウイーンにおける異教・異文化間の対話を目的とした組織で、2012年11月に、主要なスポンサーであるサウジアラビアと、オーストリア、スペイン両政府との間で設立のための協定が結ばれた。
設立当初には、オーストリアでイスラムが勢力を伸ばしていることもあり、過激なワッハーブ主義をヨーロッパに拡大する政治的意図があるのではないか、という懸念を持たれていた。ロイターによると、オーストリアから1500人ものジハード戦士が中東に向かった際には「宗教和解のための何の努力もしなかった」と批評家たちから非難されたという。
今回の会議の開催が、それらの非難をかわすための単なるポーズであるのか、それとも中東の深刻な情勢に変化をもたらそうとする純粋な意図に基づくものなのかは明らかではない。しかし、少なくともイスラム世界に影響力を持つ宗教指導者たちが、他宗教の指導者たちと共に集まり「宗教の名のもとの暴力」を一致して非難した事には一定の意義があるといっていいだろう。
記事の中でも指摘しているように、サウジアラビア自体は、イスラム発祥の地として、厳しいイスラム法を施行するとともに、イスラム以外の宗教的実践を禁じている。また、今回、非難の対象となった「過激なジハード戦士たち」に影響を与えるワッハーブ主義もサウジアラビアが出発点だ。
その一方で、サウジアラビアは、イスラム国との戦いを進める西側諸国の同盟国でもあり、武装集団にとっては象徴的なターゲットとして名指しで非難されている。今回の会議の開催にサウジ政府の意向が働いていることは間違いないが、今後の動向が注目されるところである。
なお、KAICIID系ニュースサイトの報道記事では、今回の「ウイーン宣言」で勧告された社会的結合と地域における平和構築のためのイニシアチブは、常設の委員会と作業部会によって継続的に監督されるとしている。
2014年11月23日
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