ローマと北京、そしてチベット
フランシスコ教皇は、ダライ・ラマとの会見を否定した。バチカンのスポークスマンは「中国との微妙な状況(delicate situation)に関する理由」のために、二人の会見は控えられ、ダライ・ラマもその状況を理解している、と述べた。ロイターが報じている。
ダライ・ラマは、ノーベル平和賞受賞者の世界サミットに出席するためにローマを訪れた。実は、このサミット自体も、当初は南アフリカで開催予定だったが、中国の反応を懸念した南ア政府がダライ・ラマへのビザ発給を拒んだため、開催場所が変更になっている。
フランシスコの下でバチカンは中国との関係修復に動いており、中国もそれに応える姿勢を見せている。従って、そのプロセスに障害となるような行動は控えざるを得ないということのようだ。
習政権になってから、中国のキリスト教徒は受難の時代を通過している。今年4月には、浙江省の温州で、抵抗する信徒たちを排除して教会が破壊されるという事件が起こり、聖職者や信徒たちが拘束された。
8月に教皇が韓国を訪問をした際には、韓国にいる中国人聖職者がミサに参加しないよう本国に召還された。また、教皇を迎えるために、中国から韓国に向かおうとした神学生40~50人も空港で出国を阻止されたという。
同じ時、教皇は中国上空から、習近平主席に挨拶のラジオメッセージを送っている。これは、教皇が上空を通過するすべての国で行う慣例であり、決して珍しいことではない。ただ、歴代教皇の中で、中国の上空通過を許可されたのはフランシスコが初めてということで話題になった。
しかし、その空のもとでは、聖職者や信徒たちが、信仰にもとづく行動の自由を奪われていたことになる。
Malcom Moore. “Pope sends unprecedented greeting to Beijing”. the Telegraph. Aug 14th, 2014
教皇の立場は複雑である。中国と同様にキリスト教徒を抑圧する「イスラム国」に対しては、教皇は強い非難を表明している。一方で、中国に対しては、信徒への更なる迫害を恐れて、強い態度を取る事が出来ていない。
自らの子供を人質にとられた親のような立場だと考えれば、教皇やバチカンの立場を理解できなくもない。しかし、おしなべて中国の人権状況に対して沈黙している国際社会の対応も含めて、このままでいいのか、という疑問は残る。チベットでは仏教、ウイグルではイスラム、そして温州ではキリスト教の弾圧が行われ、その状況は一向に改善する兆しがない。
なお、バチカンは「教皇はダライ・ラマに対して非常に高い尊敬心(very high regard)を抱いている」と一定の配慮を示しつつ、「他のノーベル平和賞受賞者にも会う予定はない」として、会場にはビデオメッセージを送ることが発表された。
2014年12月13日
コメントを残す