テロをいかにして終結させるのか?
英国の経済平和研究所(Institute for Economics and Peace)から2014年版の『Global Terrorism Index Report』が出された。2013年までのデータが分析されており、特に、イスラム国出現までの1年間にテロが急増し、明らかな危険の兆候があったことが改めて浮き彫りになっている。
“Global Terrorism Index Report (summary)”. Institute for Economics and peace. Nov 16th, 2014
また『アトランティック』誌にKathy Gilsnianが、このレポートに関して主要なグラフを引用しつつ記事を寄せている。
Kathy Gilsnian. “The Geography of Terrorism”. The Atlantic. Nov 18th, 2014
このレポートが明らかにする深刻で興味深い事実としては以下のようなものがある。
テロによる犠牲者の急増
テロによって犠牲になった人の数は2012年と比較して2013年は61%も急増している。同期間に、テロによる殺人が起こった国の数も15から24に拡大している。ISISがカリフ国家を宣言する前の1年間に、テロがより致命的となり広範囲に拡大している兆候があった。ちなみに、テロによる死亡者数は、2000年(3361人)から比較して2013年(17958人)は実に5倍以上となっている。
OECD諸国におけるテロ攻撃
2013年のテロ関連死の34%はイラクで起こっており、それに次ぐのはアフガニスタンの17.3%である。ただ、先進諸国がテロに無縁だということではなく、2000年~2013年の間のテロ関連死の約5%はOECD加盟国で起こり、2013年には113人が死亡している。
テロリズムの原因
テロ攻撃が起こる要因として、経済的要因があげられることもあるが、実は、貧困率、就学率等の経済的要因はほとんどテロリズムとは関係がない。テロリズムに関連する主要な要因は、「国家による暴力」「集団的な不満と敵意」「高い犯罪率」である。
テロ集団の終焉
1960年代以降のデータによれば、テロ組織の終焉をもたらしたのは8割以上がコミュニティによる警備の強化や、争点の政治問題化である。軍事介入によって終結したものはわずか7%しかない。
現在のシリア、イラクにおける深刻な現状を見れば軍事力による対処が必要であることは言うまでもない。ただ、このレポートでは、軍事的な介入のみによっては最終的解決がないという事実が明確になっている。
「テロリズムは単独では起こらない。それと関連する要因を特定することによって、テロリズムを育てる根底にある環境を改善するために長期的政策を実行することができる。実行されうる最も重要な行動は国家による暴力の低減、集団的な不満と敵意の低減、そして効果的でコミュニティによってサポートされる警備の強化である」という指摘は重要だ。
「国家による暴力の低減」に関しては、暴力を行使する政府に対する経済制裁など、国際社会からの圧力にも一定の効果があるだろう。「集団的な不満、敵意の低減」については民族的、宗教的要素が大きいため、宗教者などによる相互理解、調停のための地道な努力が必須だ。更には、宗教集団の民主的な政治プロセスへの参加も、集団間の不満の政治争点化という意味で重要なポイントになると思われる。三番目の「警備の強化」については、高い犯罪率がテロリズムと関係する事も含め、傷ついたコミュニティの再生という長期的な取り組みが必要となる。
ヨーロッパやカナダにおける例を見ても、世界的なテロリズムの拡大は日本にとっても無関係ではない。更に、日本が安全保障理事会の常任理事国入りを目指すとすれば、テロリズムへの対処についても積極的な貢献が必要とされる。拡大するテロ行為を終結させるために具体的にどのような貢献が可能であり、かつ効果的なのか、このレポートは貴重な示唆を与えてくれるだろう。
2014年11月20日
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