「結婚格差」の解決策

Family

米国においては「marriage divide」が社会的な問題として広く認識されるようになってきた。結婚における分断、…「結婚格差」と表現したらいいだろうか。低所得者、労働者階級における婚姻率が、高所得者に比べて低くなっているという問題だ。これは、日本の若者の「非婚化」「晩婚化」とも相通ずる問題である。

これに関して米国にははっきりと二つの見方が存在する。保守陣営は「文化的な転換が原因だ」と主張し、進歩派のリベラル陣営は「単に経済の問題だ」と反論する。これについてブラッドフォード・ウイルコックスは、最近出版された『労働者の愛の喪失』(アンドリュー・チェーリン)を参照しつつ、どちらも間違いだ、と考えている。否、正確に言えば、文化と経済の両面が相俟って労働者階級の結婚と生活の安定性を危機にさらしているのだと結論付けている。

W. Bradford Wilcox. “It’s Not Just The Economy Devastating Working-Class Families”. The Federalist. Dec 12,2014
 
 
「結婚格差」の要因1:安定した仕事の減少

まず、ウイルコックスは経済的な要因として、チェーリンの著書で紹介された興味深い統計に焦点を当てる。そこでは「製造業の仕事の増減」と「労働者階級の婚姻率の増減」との間に正確な平行関係が認められる。端的に言えば、こういうことだ。低学歴の人であっても比較的容易に就職できる安定した割の良い仕事があれば、彼らは結婚の魅力的な候補者となることができ、結婚生活を維持する上でも有利になる。更にチェーリンは同書の中で、安定した仕事が、労働者階級の男性に尊厳の感覚を与え、彼らを「建設的な振る舞い」に導くと述べる。

この点においてウイルコックスは、まず進歩派に一票を投じる。結婚格差は「経済問題」である、と。ここまでは日本の「非正規雇用の増加」と「非婚化・晩婚化の進展」を関係づける議論と同様だ。
 
 
「結婚格差」の要因2:文化革命

ただ、経済問題と結婚問題が必然的につながっているとしても、別の統計がその因果関係を逆転させる。米国において「収入の不平等」は1970年代後半に加速しているが、「婚姻率の低下」はすでに1960年代から始まっているのだ。チェーリンが原因としてあげるのは1960年代、70年代の「カウンターカルチャー」革命である。性解放と過激なフェミニズムに特徴づけられるこの文化革命は、伝統的な結婚の概念を破壊し、婚外子、離婚、片親家庭などがより広く容認される転換点となる。

もちろん、婚姻率の低下はそれだけが理由ではないかもしれない。しかし、文化革命の結果、家庭が不安定となり、片親家庭が激増することで労働者階級の貧困が加速したことは事実である。「文化的な基準の変化」が「結婚の衰退」をもたらし「所得格差」を増大させ、結果として更なる「結婚格差」をもたらしたという因果関係だ。経済問題が結婚文化の衰退に直結しないことは戦前の大恐慌の経験によっても明らかである。1930年代、米国は深刻な失業率の高さに悩まされたが、婚外子の有意な増加は見られていない。
 
 
「結婚格差」の要因3:「男らしさ」の衰退

更に、文化という点ではもう一点。「男らしさ」と結婚との関係である。チェーリンは、人類学者デイビッド・ギルモアの議論に同意する。多くの文化において、向社会的な「男らしさ」は、結婚と扶養者精神に連結されており、男性の生活に規律をもたらしたとの指摘だ。仕事と結婚に責任を持ち、稼ぎ手であるとの地位が、彼らに男性としてのアイデンティティの確立をもたらした。逆にそれが失われる時(失業などで良き扶養者になることができない時)、その男らしさは不貞行為や、薬物、アルコールの乱用、暴力など最悪の形で現れる。

ここで、進歩的な人々は、男性が稼ぎ手で、女性が家庭を見るというのは古い考え方だ、と主張し、高収入の家庭は、むしろ男女が平等に働く進歩的な価値観を持っているがゆえに成功しているのだと言いたがる傾向がある。しかし、統計は、その推測を見事に裏切る。2012年、米国社会において大卒(高学歴)の家庭、低学歴の家庭、共に家庭の収入に占める男女の所得の割合は、男性が7割、女性が3割でほとんど有意な差は見られない。
 
 
「結婚格差」解消に向けた提言

上記「労働者階級家族の崩壊」つまりは「結婚格差」について三つの原因をまとめると次の通りだ。

  • 低学歴の男性のための安定的で適切に給与が支払われる仕事の減少
  • 結婚を中心とする家庭主義から離れた文化の転換
  • 扶養者精神につながる労働者階級の向社会的な「男らしさ」の侵食
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    これを受けてウイルコックスは、連邦政府と民間セクターに向けて次のような提案をする。まず、連邦政府に向けては、仕事と結婚を補強するために以下の四つの提案をする。

  • 低学歴の人々の仕事のため、賃金に助成金を支給。
  • 結婚に不利な税制(所得移転)からの転換。
  • 幼児税額控除の充実。
  • 若者が安定した中程度のスキルの仕事につけるよう、職業訓練等への資金提供の強化。
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    同時に、彼は政府以外のプレーヤー(市民的、宗教的、文化的指導者、オピニオンリーダー)にも行動を要請する。なぜなら「結婚格差」の背景には政治的経済的問題のみならず、文化的問題(結婚についての価値観、「男らしさ」と扶養者精神)もあるからだ。

  • 労働者階級の若者に(彼らとその子供たちのためにも)「親になる前に結婚する」ことと「父たることの価値」を啓発し、一時的な恋愛に溺れる生活から距離をおくようにする市民的キャンペーンを行う。
  • 社会活動に消極的な傾向がある低学歴の米国人を、サッカーリーグから教会活動まで積極的にかかわらせるよう世俗的、宗教的市民組織に奨励する。
  • 「父たること」と「市民的なかかわり(特に男性にとって魅力的なコーチなどの役割)」を含む「男らしさ」の新しいモデルを創案し、彼らを家庭と共同体の中に引きこむ努力をする。
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    日本における「結婚格差」解消のために
     
    これらの提案は、同様の問題を抱える日本社会にとっても有益な示唆を与えるものだ。日本における若者の非婚化、晩婚化も単に経済的問題ではない。内閣府の調査によれば、結婚しない理由のベスト3は、

    1位:独身生活の自由さ気楽さを失いたくない。51.9%
    2位:経済的に余裕がない。47.4%
    3位:結婚する必要性がわからない。41.9%

    となっており、文化的な理由が、経済的理由を挟み込む形になっている。様々な経済的施策と共に「結婚」を価値視する文化を再生させる運動が必須だろう。

    「家族と地域における子育てに関する意識調査」p24. 内閣府. 平成25年

    そして、もう一つ「男らしさ」の再生が必要だとの指摘も一考する価値がある。日本でもジェンダーフリー思想の浸透により、遅れてきた「文化革命」が進行しつつあるが、男女の性差は、生物学的に見ても、脳の機能においても厳然として存在する。従って「男らしさ」「女らしさ」を過度に否定した結果としての「草食男子」「絶食男子」である可能性も捨てきれない。

    ウイルコックスはこの文章の冒頭で述べている「米国の家族問題を解決する方法を理解するためには、正確な診断が必要である」。我が国でもそれは同様だ。

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