経済再建のカギとなる結婚

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クーリッジ記念財団晩餐会での出来事

11月6日木曜日、NYでカルビン・クーリッジ記念財団が後援する晩餐会が行われた。そこでは、富の再分配をテーマとした議論が行われ、「政府が富をより広く分配する責任がある」とするカナダの学生チームと、「それは政府の仕事ではない」と主張するアメリカの学生チームとの対決があった。

続いて、フィル・グラム前上院議員(テキサス)とクリスティア・フリーランド議員(カナダ)も同様のテーマで討論を行なった。それら興味深い企画の中で、最も大きな感銘を残したのはCNBCの解説者ラリー・カドロウの演説だったとキャル・トーマスがレポートしている。

Cal Thomas. “Marriage, the Economy and calvin Coolidge”. HatchNews. Nov 10th, 2014

 

その時の講演について、カドロウ自身『National Review Online』にエッセイを寄せている。冒頭、カドロウは「現在、米国は『大恐慌』の期間を除き、1世紀間で最も長期の低成長に陥っている」と経済解説者として危機感を表明した。

Larry Kudlow. “Marriage is Pro-Growth”. National Review Online. Nov 14th, 2014

経済成長を回復させるための処方箋として、米国でははっきりと二つの陣営が対立している。一方は、富裕層への増税と、福祉拡充を目的とした政府支出の増大を主張する。もう一方は減税と規制撤廃、政府支出の縮小を説く。

カドロウ自身は、レーガンのサプライサイド政策の支持者として、減税、規制撤廃、小さな政府を支持するとしつつ、そのリストにもう一つの重要な要素を加えたいと述べる。

それが「結婚」だ。彼がこのことを大きな声で訴えた時、晩餐会の参加者たちには一瞬の沈黙があったという。しかし、軽いショックが消えた後、多くの聴衆がうなずいて答えた。事実、彼の主張には、しっかりとした統計的な裏付けがある。
 
 
永続的な貧困階級がつくられつつある?

統計の説明に入る前に、彼は崩壊した家庭で育つ若者たちに対する想いを吐露し、「カドロウ101(入門編)」なるものを紹介する。実際に、米国の崩壊した家庭で育つ若者たちは、進学率、就職率共に低く、自らも幸福な結婚、家庭を築けないことが多い。カドロウは言う。「私は、私たちが永遠の貧困に苦しむ最下層階級をつくりつつあるのではないかと恐れる」。

そんなカドロウが心から若者たちに語りかけたいという言葉が「カドロウ101」だ。その内容は次のようなものである。

「どうか学校に行ってほしい。どんな学校でもいい。そこで君たちは、物事と物事を修復する方法を学ぶことができる。それから仕事をしてほしい。梯子をよじ登るような経験をするだろうが、どうか数年間はその仕事にとどまってほしい。そしてそれから結婚するんだ。ただ、すぐにベッドに飛び込んではいけない。私の妻が言うように「少し研究するといいわ」。それから数年間は結婚にとどまり、犠牲と責任と妥協…そして幸福を学んでほしい。そうして、そのすべてを終えてから、子供を持ってほしい」

非常にシンプルなメッセージだ。しかし、改めて確認することが必要なほど、これらのメッセージは、きちんと若者たちに届けられていない。それは日本も同様かもしれない。多くの崩壊した家庭の子供たちは、卒業せず、仕事をせず、結婚をしない。これは、間違った道理であり、間違った公式だ、とカドロウは言う。

そのうえで、彼は、結婚の重要性を示す統計や研究を一つ一つ挙げていく。

経済ライターのロバート・サミュエルソンの指摘。現在、米国では新生児の40%以上が未婚家庭から生まれ、片親家庭が爆発的に増加している。結婚を回避する動きは「幸福を減少させる」かもしれない。

イザベル・ソーヒルの研究。未婚の母の一部は複数のパートナーを持つ。彼女たちは、自分の子供を「理解不能な関係性の混沌と不安定性の中に従属させる」。そのような環境で子どもの情感が正常に育つだろうか。

ヘリテージ財団(Heritage Foundation)、スティーブン・ムーアの見解。「社会的プログラムとして、家庭における忠実な夫と妻の結婚は、フードスタンプ、メディケイド、公共住宅などやそれらの複合よりも、はるかに優れている」。
 
 
AEIの最新レポート

そして最後に挙げているのが「アメリカン・エンタープライズ研究所(American Enterprise Institute)」と「家族問題研究所(the Institute for Family Studies)」が合同で出した最新のレポートだ。これについてのサマリーを、レポートを主導したブラッドフォード・ウイルコックスがAEIのサイトに寄稿している。

W. Bradford Wilcox. “Inequality and mobility : Don’t forget family” American Enterprise Institute. Nov 3rd, 2014

このサマリーにレポートへのリンクも貼ってあるので、詳細はここでは触れない。彼らの研究の結論は「無傷の結婚した夫婦による家族(the intact, married-couple family)」こそが経済的平等と社会的流動性を担保し、停滞した所得水準の改善につながる、ということだ。

1979年以降の世帯収入の格差拡大の三分の一については、未婚、あるいは離婚した親の増加と関係があり、所得格差の拡大も同様である。そして、もしも現在、1980年のレベルで婚姻率が維持されていたならば、子供を持つ中流家庭の収入は44%高くなっていたとも推計する。

また、両親が揃う(養父母を含む)家庭で育つ子供と、そうでない傷ついた家庭で育つ子供では、進学率、就職率、所得等、明らかな差が生まれ、それが社会階層の固定化につながっていることも示されている。

これらの事実は「福祉国家」として発展してきたスウェーデンにおいても同様に認められる。その国でも崩壊した家庭で育つ子供は、学業、就業共に失敗する率が高く、子供の貧困も、両親が揃った家庭に比べて、片親家庭は三倍もの高率だ。

最後に、ウイルコックスの批判は、家族構造がもたらす経済的影響が、人種、教育、ジェンダーなど通常注目される他の要因と同じくらい大きいにも関わらず、多くの専門家が、この事実に対して沈黙していることに向けられる。

もしも、これら格差の拡大や、所得の停滞に真剣に取り組もうとするなら、どのようにしてアメリカの「結婚」を再建するのかに焦点を当てなければならないとウイルコックスは訴える。それはカドロウのクーリッジ財団における講演と同様に切実だ。

ウイルコックスが訴える対象は広範囲にわたる。政治、ビジネス、思想など各界の指導者たち、エコノミスト、教育者、そして宗教指導者だ。

同様に長期にわたる経済の減速にあえぐ日本においても、結婚、家族構造の問題にしっかりと焦点をあてなければならない。ともすれば「多様化する家族」の現状にあわせた対処療法的な政策に偏りがちだが、そろそろ「多様化する家族」そのものが、問題の原因であることに気づくべきだろう。「米国の問題が10年遅れて日本に現れる」と言われることもあるが、対策まで10年遅れる必要はない。

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